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「第十三回:デロリアンに乗って」

海の部屋_第十三回_掲載写真

深夜のサービスエリアは夏でも少し肌寒い。それだけでなく周りを取り囲む山々が放つ草の匂いがたちこめていて、全てが深呼吸をするためにできた空間のようだ。
冷たい空気と草の匂いを体内に取り込んで新車の臭いが充満した車内の空気を吐き出せば、内臓が一つ、また一つと息を吹き返す。



高速道路を走っていると時々綺麗な星空が見える。夜のピクニックで"闇にグラニュー糖をまぶしたような星空,,と言っていたが、まさにそれなのだ。
窓を開けて星を眺めながらそのことをゆきちゃんに教えるとすぐさま車の奥からやってきて、同じ窓から(首を90度も捻って)空を見上げる。
あいにくそのすぐ後からトンネルや灯に阻まれてなかなかいいスポットに辿りつかなかったのでしばらく隣に座ることになった。
こういう時にふとバンドメンバーという存在の不思議さを感じる。
友達でもなければ仕事仲間でもない、ましてや家族でもなければ他人でもないのだ。ただ一緒に音楽をしているというだけで繋がっている人間、事実はそれ以上でも以下でもないけれど決してそれだけでは言い切れない、割り切れない関係なのだと。

こんなことを考えてしまうくらいに広い車内で隣に座っているということが無性に小っ恥ずかしくて仕方ない。
星空を眺めながらキラキラと漏れる声は強い風とその音に流されてうまく聞き取れなかった。



そうこうしている内にハイエースはヘッドライトで白く光る霧に覆われ、同時に車内も不安定な高揚感に包まれた。
遥か遠くの星が見えることもあれば、次の瞬間には一寸先すら見えなくなるなんて皮肉な話だ。これじゃあ私の人生と一緒じゃない。


バック・トゥー・ザ・フューチャーでデロリアンが一瞬の光と煙に包まれながら未来に行ったように、
光る霧に包まれたハイエースに乗って私たちはどんな未来にたどり着くのだろうか。
そしていつかこの場所で起こったことの全てに想いを馳せれば、いつでもここに帰って来れたりするのだろうか。


みんなを送り届けた後、目的地到着時刻をぼんやり眺めながらマネージャーとこれからの話をする。
遠くでは等間隔に並んだ灯が互いに近付いたり離れたりしていた。




海 (2021.06.02更新)




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