リーガルリリーBa.海の部屋
「第二回:キッチン」
わたしもいつか自分のキッチンがほしいと思った。
こんなことを思う日がくるなんて。
お母さんがいろんな人に「この子本当に何もやらないんですよ、食べたものも洗わないしご飯の手伝いもしない、この前なんて自分でご飯作るくらいなら面倒くさいから食べないなんて言い出して」と紹介しても苦笑いしかできないくらいに今まで何もしてこなかった。
「いいもーん、お嫁にいったら一緒におばあちゃん連れて行くんだから!毎日ご飯作ってもらうんだから!ね!おばあちゃん!」なんて言っていたけど、これほど迷惑なこともないし、第一お嫁にいったらなんて軽々しく言って本当にお恥ずかしい限り。
そんな時期を経てわたしもなんとか人並みにお料理をするようになりましてね、、
(よっ!いい女ダネ!)
それにしても夏のキッチンはすこぶる暑い。おばあちゃんと2人で麦茶を飲みながら夕飯を作るのが最近の日課で
あー、吉本ばななの『キッチン』の主人公もこんな風におばあちゃんとキッチンに立ってたのかな、なんて思いながらこの前誕生日にもらった少し良い包丁でちくわを切った。
「すごい!こっちより新しい方が切れ味抜群!つかってみて!」
「うわほんと!うそみたいねぇ」
なんて会話をしたけど、ちくわじゃ切れ味なんて大して分からない。
お母さんは器用で絵も縫い物も上手くて、料理は特にできたから子供の頃はよく「ママの手は魔法の手〜」なんて歌を歌いながら一緒にフライパンをかき混ぜていた。
だからこそわたしが1人でご飯を作るときに、お母さんならこうするな〜とか、この方が絶対美味しいよと横槍を入れてきて結局全部お母さん味になる。けどやっぱり美味しいから何もいえない。
純度100%の言い訳なんだけど、これがわたしの料理しなかった要因だと思ってる。
その点、おばあちゃんはおばあちゃんのなのに料理嫌いで面倒くさがりだからいい。三品くらいおかずがあるのに全部同じ味のときもある。
どう考えてもメイン級のおかずを同じ日に作るところも、甘いサツマイモをなんとなくお肉で巻いてみんなから大ブーイングされるところも好きだ。
もし今わたしが一人暮らしをしたら夕飯のおかずが一品くらい減るのかな。ちくわにのせた生姜がなくなるのかな。
そうか、だからみんな一人暮らしに反対なんだ。
レンジで温めている間にサクっと物件を探すと、やっぱり一口コンロで作業スペースも収納もない。
ふーん、手強いじゃん、東京。
海 (2020.07.21更新)
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