「Augusta Camp 2025」オフィシャルライブレポート掲載!

山崎まさよしのデビュー30周年を記念して開催された「Augusta Camp 2025 YAMAZAKI MASAYOSHI 30th Anniversary〜」。オーキャンことオーガスタキャンプは、オフィスオーガスタの所属アーティストが一堂に会する野外イベントとして毎年開催されてきたが、もともとは1999年に山崎が立ち上げた野外ライブとしてスタートしたイベントである。ちなみに今回の開催地となったぴあアリーナMMは、30年前に彼が住んでいたアパートからほど近く、当時冬になると灯油を買っていたという近所のガソリンスタンドも未だに営業中である。そんな彼の軌跡を振り返るにはふさわしい場所で、オーガスタの仲間たちが山崎の楽曲をフィーチャーするのが今回のテーマだ。

 

オープニングアクトを務めた大東まみのステージが終わり、ついに迎えた開演時刻。オープニング映像でデビュー当時の山崎の写真が投影されると同時に客席からどよめきが起こる。そこへ山崎がオーガスタの仲間たちを引き連れステージに登場すると、さらに大きな歓声と拍手が沸く。「オーガスタキャンプへようこそ! えーと……オープニングです(笑)」と山崎が言い淀むと、すかさず杏子が「今日は山崎まさよし30周年をお祝いしたいと思います!」とフォロー。そんな2人のやりとりはオーキャンの風物詩みたいなものである。そのままみんなで福耳の「10 Years After」を歌のバトンで繋いでいく。

 

さらに曲が終わっても転換の場繋ぎとしてみんなでステージに残ってトークを始める段取りもオーキャンならでは。杏子が会話を仕切ろうとするも、スキマスイッチ大橋卓弥による秦 基博への後輩イジリを皮切りにトークはグダグダに。もちろんお客さんは大喜びな展開だ。

そんなオーキャンらしい転換タイムを経て始まった長澤知之のステージ。まずは「明日のラストナイト」で相棒のレスポールを激しく弾き倒し、続く「GHOST」ではアコギに持ち替え優しくメロディを歌い上げる。そして山崎のカバー「振り向かない」を弾き語りで熱唱。ライブでは声を枯らすほどエモーショナルな歌い方をしがちだった彼が、感情を抑制したままメロディと優しく向き合う姿に、山崎への畏敬の念が感じられた。

 

続いてのアクト、オーガスタの新人・ルイは、目を惹くイマドキな容姿とは裏腹に、生真面目な口調で大先輩へ祝辞の言葉をたむけてから「ヤサ男の夢」のカバーを披露。山崎が原曲で吹いているカズーも駆使して会場を大いに沸かせるだけでなく、新曲「真夏のリズム」ではハンドマイク片手にステージを颯爽と駆け回り、しっかりとステージに爪痕を残していった。

 

次のステージは今年還暦を迎えたCOIL岡本定義が、山崎を引き連れステージに現れる。全身を真っ赤で統一した衣装をもちろん山崎が突っ込まないはずがない。

そんな2人は久しぶりのユニット【さだまさよし】として、「水のない水槽」そして「Passage」をカバー。岡本がしっとりメロディを歌い上げる傍ら、ブルースハープで彼とのセッションに挑む姿は、ブルースマン山崎の真骨頂を見たような気がした。

 

続くさかいゆうは、2人きりの舞台から打って変わってバンドメンバーとともにハイテンションで登場すると、その勢いで「まなざしデイドリーム」さらに「薔薇とローズ」を投下して会場を盛り上げる。「山崎まさよしのファンクサイドをカバーしたいと思います」と前置きしてから始まった「Fat Mama」は、ねっとりとしたグルーヴで聴かせるPファンク的アレンジが新鮮。そして「桜の闇のシナトラ」では長尺のバンドセッションを繰り広げ、オーキャンのハウスバンドの高いプレイヤビリティを余すところなく披露した。

 

20分間の休憩を挟んだステージは、元ちとせからスタート。今年が戦後80年であることから「イムジン河」そして「死んだ女の子」を歌い、平和へのメッセージを力強い歌声で届ける。

 

さらに「語り継ぐこと」ではこの曲のアレンジを手がけたスキマスイッチ常田真太郎と共演を経てからの「ド ミ ノ」のカバー。こちらは常田と入れ替わりに大橋を呼び込んでの盛大なセッション大会と化していた。

 

 

オーガスタ在籍27年のドラマー、あらきゆうこは杏子と長澤のサポートを借りて今年リリースされた「Fate」を披露したのち、「Passage」をスキマスイッチと3人でカバー。

山崎デビュー25周年のオーキャンでも同じメンツでカバーしたものの、あいにくコロナ禍の無観客ライヴだったこともあり、再演を希望したのだという。山崎の長いキャリアを労うような、優しさに溢れたコラボレーションだった。

 

アコギを抱えたままステージに上がった竹原ピストルは、駆け足で自己紹介とこれから歌う曲を紹介してから「逃がしてあげよう」でスタート。さらに“薬づけでも生きろ”という言葉が刺さる「LIVE IN 和歌山」を畳み掛けると、「よー、そこの若いの」では手拍子とシンガロングでオーディエンスとの共演を果たす。さらに「今も昔も大好きな山さんに捧げます」――そう宣ってから歌った「Forever Young」はその名のとおり、この先も変わらず歌い続けて欲しいという山崎へのメッセージとして歌われていた。

 

そんな竹原の1人舞台とは対照的だったのは、次のスキマスイッチのステージ。大橋のアカペラで「Ah Yeah!!」が悠々と始まったものの、続く「さみしくとも明日を待つ」のアウトロでは、ハウスバンドとともに常田のソロをフィーチャーした壮大なインプロビゼーションを展開する。

 

 

そして敬愛する先輩に捧げたのは、山崎が主演した映画の主題歌「8月のクリスマス」。大橋の歌と常田のピアノだけの演奏は、シンプルなだけに2人の山崎に対する想いが露わになっていた。

 

2回目の休憩を経てライブはいよいよ後半戦へ。秦 基博は初手から「鱗(うろこ)」を弾き語りで披露。鋼と硝子で出来た声と称されていたデビュー当時、まさにそのとおりだと思われた1曲だが、今の歌声は鋼でも硝子でもなく、温もりや穏やかさが感じられるものだと痛感する。そしてMCでは自分も横浜育ちであり、横浜の魅力を発信する「横浜観光応援団」のリーダーを務めていることをアピール。そんな前置きから始まった「中華料理」のカバーは、山崎の後に続く弾き語りの名手にふさわしい好演ぶり。「キミ、メグル、ボク」の演奏中にも「ヨコハマー!」と叫ぶその姿は、山崎の横浜に対する想いを自身にも重ねているように見えた。

 

続く杏子は黒で統一された衣装で登場し、「エロス120%の曲でございます」と「僕らの煩悩」を妖艶にカバー。彼女ならではのマニアックな選曲と、ドラムにあらきを迎えたバンド編成による大胆なアレンジは、後輩たちには真似の出来ない芸当だろう。さらに「幕末wasshoi」で会場とのコールアンドレスポンスで盛り上げ、野外ライブに劣らない祝祭感を演出。大切な仲間たちと心を繋げる大切なオーキャンという場所に心を砕いてきた彼女にとって、それを立ち上げた人物の節目を心から祝福しているのがわかるパフォーマンスだった。

 

次は松室政哉です!と杏子にバトンを託された松室がカバーするのは「琥珀色の向かい風」。夏の終わりの風景を描写するメロディを丁寧に歌い上げるその様子から、何事にも生真面目かつ愚直に向き合う彼のスタンスが垣間見える。それでいて自分らしさを貫こうとする芯の強さが感じられるところが、彼の魅力でもある。

 

続いてはリリースされたばかりのニューアルバム「Singin’ in the Yellow」からの楽曲を立て続けに披露。なかでも新人のルイをゲストに迎えた「渚のメイキャップ」では、ルイと一緒にサングラスを掛けて8090年代を彷彿とさせるパフォーマンスに興じてみせる。ラストの「世界中を敵に回しちゃうな」では杏子、あらき、ちとせも加わって賑やかにクライマックスを迎えた。

 

場内暗転からスクリーンに映し出された「Next Artist……」という文字。そこへ30年ぶんのミュージックビデオが忙しなく流れ、映像は次第に横浜を散策する現在の山崎まさよしへと移り変わる。ついに迎えたメインアクトのステージ。山崎とともに姿を現したのは中村キタローと江川ゲンタだ。お馴染みのトリオ編成に客席から歓声が上がるも、当の本人は声援に応える余裕がなさそうに見えるが、「ア・リ・ガ・ト」を歌い出したと途端、いつも以上の集中力をもって舞台に立っていることに気付かされる。

 

おそらくここまで自身の楽曲をカバーしてきた仲間たちの想いを背負って出てきたのだろう。その歌声には彼らに対する感謝の念と慈しみが込められているような重み、そして厳かな響きがあった。そんな緊迫感が漂う空気を一変させたのは、山崎に呼び込まれて登場したさかいゆうだった。彼の緊張を解きほぐすように、歌と鍵盤で「One more time, One more chance」をサポートする。

 

さらに長澤との「晴男」。次第にエレキで裏拍のリズムを刻む山崎の表情に、穏やかさが戻ってきた。歌うことの歓び。誰かと音を鳴らすことの興奮。ついに彼はこう叫んだ。「お客さーーーん!」

ようやく見せた笑顔。その刹那、会場全体がパッと明るくなったような気がした。バンドの音も、ステージの照明も、すべてが晴れ晴れとした空みたいに澄んでいく。

 

多幸感に包まれた山崎が、今度はガットギターに持ち替えて「僕はここにいる」をしっとりと歌う。まるで自分自身に言い聞かせているみたいだと思った。仲間に囲まれてこれからもずっと音楽とともに人生を歩んでいくことを、ステージで誓っているかのように。

山崎はいつからか「老兵は去るのみ」と自分を嘲るようになった。それでもCMをはじめ映画やテレビ番組の出演依頼が途絶えることはなく、そんな自分のことをどこか疎ましく思うようになっていったのだろう。ずっとオーガスタという家族を背負ってきたけど、そろそろバトンを誰かに渡したいと思ったのかもしれない。それでも30周年を迎えた今年。もともと神輿に担がれるのは苦手なタイプだ。複雑な想いを抱えたまま、この日を迎えていたところもあっただろう。しかし蓋を開けてみれば、ステージでは仲間たちが団結してオーガスタという家族を守っていた。しかも彼らは山崎の歌をカバーすることで、山崎自身にエールを贈っていたのだ。そのことに彼自身が気づいたのではないだろうか。

アンコールはもちろん全員総出のステージ。

 

みんなで「セロリ」の早口言葉をちゃんと歌えるか“毎回毎回そんなにいつも会えないから”選手権が大橋の仕切りで開催される。ずっと笑いっぱなしの舞台はオーガスタ一家の団欒みたいに和気藹々としていて、ずっとこういう時間が続いたらいいのに、と誰もが思ったことだろう。「星のかけらを探しに行こう Again」でエンディングを迎えた時、再び山崎が「ありがとう」という言葉の代わりに叫んだのは「お客さーーーん!」という呼びかけだった。ヤマさん、デビュー30周年おめでとう。

 

TEXT:樋口靖幸/音楽と人