さかいゆうというアーティストを語る上で、後世忘れられない、どころか、避けて通ることのできない曲になるだろう。ひさしぶりのシングル曲となる「君と僕の挽歌」は、それだけの感情が込められた歌だ。そう、挽歌……今はもういなくなってしまった、かけがえのない人のことを、さかいはこの曲で悼んでいる。

「自分の中から、とても素直に出てきた曲ですね。これはいつか僕が死んだ時、あいつが『あの曲良かったよ』って言ってくれればいいんです。だけど同時に、たくさんの人に聴かれるであろうことも考えて、ポジティヴな曲にしたいと思った。だからその内容をボカさないで、ウソがないように、何回も何回も書き直しして……その間は心がグラグラ来ましたね。この唄を聴いて元気になってくれる人がいたらいいな、と思います」 ここで言及されている「あいつ」とは、さかいが青春時代を共に過ごした、とある親友のことである。やけに気が合ったふたりは楽しい瞬間をいくつも重ね、両者の間には尊い友情が芽生えた。しかしその彼は不幸なことに、突然この世を去ってしまう。
そこからさかいの人生は大きく変わっていくことになった。亡くなった親友の部屋を訪れたさかいは、そこでエリック・クラプトンやロバート・ジョンソンなどの、もはや遺品となってしまったCDをプレイヤーに入れる。当時、未来への漠然とした目標も何もなかったさかいに対し、急逝した彼はミュージシャン志望だったのだ。

「その部屋で彼の持っていたCDを聴いていたら……自分はいつの間にか音楽の世界に入ってたんです。僕がこの道に進んだのは100%、そのことがあったからですね」
さかいについて、短期間で楽器をマスターしたとか、アメリカで音楽の勉強をしたとか、帰国後に音楽活動を精力的にやってきたとかは、よく知られていると思う。しかしその出発点である音楽の道を選んだ動機として、この親友を失った出来事はあまりにも大きかったのだ。「君と僕の挽歌」の唄い出し、いきなり聴き手の心のド真ん中をわしづかみにする<淋しさは続くだろう この先も>という言葉は、その赤裸々な感情に他ならない。「ソングライトしながら、やっぱり泣けてきましたね。言ってみれば、この歌はバラードではないんです。サウンドはロックじゃないけど、すごくロックな気持ちで唄ってます。それに彼が死んだって、僕は生きていかなきゃいけないわけですからね……」

歌の中でとりわけ印象深いのは、サビの<How's it going? How's it going? 調子どうですか?>というフレーズだ。この世にいない相手に向かって何度も語りかけられるこの箇所には、さかいのリアルな心模様が浮き彫りになっている。
「死んだあとにどこに行くかなんて、わからないじゃないですか? たとえば彼の骨を焼いたら、その煙が雨に吸収されて、その雨がどこかのトウモロコシか何かの栄養となって、それを僕が食べるかもしれないし……そういうふうに<どこかで生き続けてるな>と思えることが、僕は救いがあると思うんです。そういう意味も込めて<調子どうなのかな?>って。こちらも元気じゃない時もあるし、<空見上げるばかりさ>なんですけどね。聴く人には、これを遠くの友達と重ねてもらってもいいし……そんな歌ですね」

せつなそうな、悲しそうな表情を浮かべるさかい。いや、悲哀や孤独は今までの彼の歌にもあったが、この曲でのそれは途方もなく大きく、重たい。しかしそこに希望のような感覚もかすかに宿っているのは、本当に素晴らしいと思う。そしてこうしたテーマに向かう原動力となったエモーションは今、自身の音楽の、歌のあり方を変えようとしている。3年前のデビュー当時のさかいはシルキー・ヴォイス云々と言われたものだが、マルチ・プレイヤーである彼は、その声質も含め、どちらかといえばサウンド指向だった。それがここではグッと歌に意識が向かっているように思うのだ。
「いまエディット・ピアフにハマってるんですけど、毒っ気があって、でもすっごい悲しいですよね。ビリー・ホリデイとかもそうだし、フランク・シナトラやマーヴィン・ゲイなんて歌にストーリーが見えるんです。そんなふうに最近は<どうやったらいい歌唄えるんだろう?>ってことをよく考えていますね」

こうして自分の世界の開拓に必死だという彼は、去年の全国ツアー終了後からずっと制作に打ち込み、試行錯誤をくり返しているようだ。その成果は今年、そう遠くないうちに耳にすることができるはずである。
「アッパーだったり、サビがキャッチーだったり、シングルの候補になる曲はいろいろあったんです。でも僕はどうしても<君と僕の挽歌>をシングルにしたかったので、うれしかったですね。これが自分が一番伝えたいことだし……それに僕は<頑張ろう>以外の言葉を使って、人を元気づけたかった。そのためにはやっぱりリアリティのあるもの、自分の一番触れられたくないところを書くしかない、と思ったんです」
その時、揺らめいていた彼の瞳が、強く輝いた。
2012年、春。さかいゆうの歌の、新たな扉が開かれようとしている。